人形佐七捕物帳009
どうした？大丈夫か？失態続きの佐七物語
「幽霊山伏」（横溝正史）
（「完本 人形佐七捕物帳一」）
春陽堂書店
師走の江戸に
｢槍突き｣殺人が横行する。
下手人は真っ白な法衣を
まとっていることから
｢幽霊山伏｣と呼ばれ、
人々から恐れられていた。
なかなか下手人の
手がかりがつかめない中、
佐七のもとを訪れた娘から
｢幽霊山伏｣の話が出て…。
人形佐七捕物帳第九話は｢幽霊山伏｣。
山伏の装束を身にまとった殺人鬼が、
処女の娘ばかりを
槍の一突きで殺害するという、
いかにも横溝正史らしい
おどろおどろしい
人物造形と筋書きです。
期待は高まるのですが…実は本作品、
肝腎の主人公･佐七が
あまりにも不甲斐なく、
せっかくの素材が生かされずに
終わってしまっているのです。
でもそんな佐七も、
愛好家なら十分に愉しめます。
【捕物帳〇〇九｢幽霊山伏｣】
楓
…幽霊山伏に拉致され駆けた娘。
武家の腰元。
緒方春浦
…将軍家お抱えの日本画の大家。
浜路
…春浦の娘。
お美乃
…緒方家召使い。
幽霊山伏に殺害される。
宮園左内
…緒方家家中の侍。老人。
宮園新三郎
…左内の息子。幽霊山伏に襲われた
楓を助けようとする。
神崎甚五郎…八丁堀の与力。
お粂…佐七の女房。
佐七…人形佐七と呼ばれる御用聞き。
本作品の味わいどころ①
女装したのに捕まる佐七
本作品では、何と佐七が女装します。
捕らえきれない
幽霊山伏を捕縛するために、
佐七自身が若い娘に扮して
囮になるのです。
｢人形｣佐七と
呼ばれているくらいですから、
それ自体は驚くに値しません。
いよいよ｢人形｣佐七の
本領発揮かと思いきや、
その後の佐七の捜査は
残念としかいいようがありません。
なんとせっかく娘姿で
囮捜査をしたにもかかわらず、
幽霊山伏に捕らえられてしまうのです。
まさに木乃伊取りが
木乃伊になってしまう大失態。
捕らえられ意識を失った娘姿の佐七を、
山伏がすぐに確認しなかったために
命を奪われずにすむのですが、
そのまま始末されても
おかしくない状況です。
本作品の味わいどころ②
何度も失敗を重ねる佐七
実はこの失態だけでなく、
本作品の佐七はどうかしているのでは
ないかと思うほど、失敗続きなのです。
列挙してみると、
以下のようになります。
一：手がかりをまったくつかめない
二：捜査の視点を上司から示される
三：遭遇した幽霊山伏を取り逃がす
四：面前で情報提供者を瞬殺される
五：容疑者を幽霊山伏に誘拐される
六：囮捜査中に自らが誘拐される
七：最後の殺人を見逃してしまう
これほど失態を重ねるのであれば、
十手取り上げとなるのは
必定なのですが、
どうやってもみ消したか、
次回以降も物語は続きます。
本作品の味わいどころ③
殺人を防ぎきれない佐七
その失態の中でも特に大きいのは
もちろん七でしょう。
四は不意を突かれた部分もあり、
やむを得ないところもありますが、
七は完全に防げたものを、
諸事情に鑑み、
そのまま見過ごしたと思われます。
したがって真相を明らかにせず、
闇に葬った可能性すら
考えられるのです。
まあ、人形佐七捕物帳は、
全部で百八十話です。
このような体たらくの佐七物語が
一つくらいあってもいいでしょう。
目くじら立てず、
あるものを存分に楽しめばいいのです。
【「完本 人形佐七捕物帳一」】
羽子板娘
謎坊主
歎きの遊女
山雀供養
山形屋騒動
非人の仇討
三本の矢
犬娘
幽霊山伏
屠蘇機嫌女夫捕物
仮面の若殿
座頭の鈴
花見の仮面
音羽の猫
二枚短冊
離魂病
名月一夜狂言
螢屋敷
黒蝶呪縛
稚児地蔵
（2021.12.31）
〔春陽堂書店｢完本 人形佐七捕物帳｣〕
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